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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第24章 終章──いつの日か

その後、都(ミヤコ)の門を出ると、晩春の陽光が巫女の顔を照らした。
花びらが舞い、遠くの里山が新緑に輝く。門の石畳には旅人の足跡が刻まれ、都の喧騒が遠くに聞こえる。
「あれで良かったのか」
巫女の後ろに瞬時に現れたのは、人の姿に擬態した鬼だった。
「…あれ、とは?」
巫女は今さら驚かず、鬼へと振り返った。
「鏡を手放して良いのかと聞いている」
「ええ、問題ありません」
もはや当たり前のように、ふたりは並んで歩き出した。
都の門を抜けて里山へ続く道は、風にそよぐ草花で彩られている。
「天哭ノ鏡は、帰るべき場所へ還ったのです」
「…あの鏡は結局なんだったのだ。いつも風景を映していたが」
「今は普通の鏡と変わりありませんよ」
「何故だ?」
「それは…──」
巫女が何かを言いかけると、道の向こうから手押し車がガラガラと走ってきた。
「お、お! その格好は巫女さまかい!?」
「…っ」
車を押す男が叫ぶ。汗と埃にまみれた顔が、焦りを帯びている。
「どうされましたか?」
「モノノ怪がでたんだ! そいつに化かされちまって…商品を盗られちまったんだい!」
「モノノ怪……ですか」
「胸くそ悪ぃ! 何とか見つけてっ…こらしめてくだせえ!」
どうしたものかとチラリと横を見ると、腕を組んで立つ鬼が、顔をしかめながら鼻をクンと動かした。
(仕方がありませんね)
「わかりました。お引き受けします」
「ありがとうごぜえます!」
「ひとつだけ、お願いがあるのですが…──」
──

