この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第24章 終章──いつの日か

「鏡とは本来、自分自身を映す物。
わたしもあなたも……それを恐れた臆病者です」
「……そうか、確かに、……そうやもしれぬな」
それを聞いた鬼は、これ以上を話すまいとした。
彼にはひとつ、巫女に伝えていない事がある。
それは──鏡が人界を映していたのは20年ほどで、それ以前はずっと、そこには天界の風景が流れていたということだ。
「──…」
そして巫女は、鬼の探し人が誰かを聞かなかった。
彼女にはひとつ、鬼に伝えていない事がある。
これまで天哭ノ鏡は、鬼の願望に影響して人界の風景をかわるがわる映していた。
そして今は本来の姿…なんの変哲もない鏡に戻っている。
つまりこの間に……鬼は探し人を見つけたという事なのだ。
「いつの日か……思い出したいものですね」
「……?」
クスリと笑った巫女は、小さな口で桜餅を頬張った。
彼女の琥珀色の瞳が、晩春の光に輝く。
鬼は無言で彼女の美しさを目に焼き付ける。
林の優しい静寂が、そんなふたりの絆をそっと包み込んでいた──。
巫女は鬼の甘檻に囚われる(完)

