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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第9章 朝露の来訪者

巫女は一目で、彼もまたモノノ怪だと理解した。
「なっ…!人間がいるなんて、予想外だ」
少年は巫女をじっと見つめ、縁側におそるおそる近付いた。
玉藻(タマモ)と呼ばれた狐は巫女の膝の上でくつろいだまま、少年の方をちらりと見て、また巫女の胸に顔を埋める。
「おい玉藻!」
「…………(クーン)」
「玉藻が人間にこれほど懐くなんてっ……こいつは昔から人間嫌いなんだがな。変だな…!?おーい、おーい」
「…………」
「おお、しっかり無視してくる」
少年は、巫女に懐いている狐の様子に戸惑っている。ただ彼の声は落ち着いており、大人びた観察力が感じられた。
巫女は微笑み、膝の上の狐をそっと撫でた。
「玉藻、というのですか? 可愛い名ですね」
「あ、ああ」
「この子はそこで動けなくなっていました。呪いに侵されていたのです」
「……!まさか、オマエが治したのか?」
「はい」
少年は目を細め、玉藻の後ろ足を確かめるように視線を落とした。黒い痕が消えているのを見て、感嘆の息を漏らす。
「見事だ。呪いを完全に祓うとは、非凡な力だ。オマエは一体何者だ?」
「わたしは巫女。浄化の力を使えます。あなたは……?」
「そうか巫女か。オレは影尾(カゲオ)で、玉藻の兄だ」
影尾(カゲオ)は静かに名乗り、玉藻を指差した。玉藻は巫女の胸に顔を埋めたまま、くぅくぅと小さな寝息を立てている。
「兄妹なのですね。仲が良さそうで微笑ましい」
巫女の言葉に、影尾はふっと笑みを浮かべ、ようやく彼女の横に腰を下ろした。
「そう見えるのは、良いことだな。だがなによりオマエがこの屋敷にいる理由が気になる。ここは鬼王さまの領域だぞ?人間が無事でいられる場所ではない」
その言葉に、巫女の表情が一瞬曇る。彼女は玉藻を撫でる手を止め、静かに答えた。

