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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第9章 朝露の来訪者

「わたしは……鬼に閉じ込められています」

「ほう、それは興味深いな」

 影尾の琥珀色の瞳がカァッと光る。

「それでも生きているということは、よほど鬼王さまに気に入られたか、あるいはオマエの力が並外れているかだ!どちらなんだ?」

「ええ……っと、それは」

 巫女は苦笑し、言葉を濁した。彼女自身、鬼の真意がどこにあるのか、完全には掴めていなかった。

「それは……彼に直接聞いてみるしかありません」

「それもそうか」

 影尾は彼女の曖昧な答えに小さく鼻を鳴らす。


「ところで── " 鬼王さま " とは呼び名ですか?あの男は鬼界の王族なのですか?」

「王族??」

 キョトン顔で、影尾が巫女を見返す。

「オレたちの世界にそんなのはいない。オレたちは他種族と群れないし、身分も、階級も、法も無い」

「……無法地帯というわけね」

「鬼界におけるルールはひとつ
《 強者には逆らえない 》──それだけ」

 そして影尾は、視線を遠くへやって答えた。

「あの御方は誰よりも強い。だから誰もが " 鬼王 " と呼ぶのさ」

「では、…彼の名は別にあるのですね」

「いや?無いと思うぞ?オレたちとは違って、鬼王さまは唯一無二の存在ゆえ──名前なんて必要ない」

「名前がない……」

 巫女は小さく呟き、どこか共感するように目を伏せた。


 唯一無二の存在

 名前が必要ない

 誰にも、名前を呼ばれない──


「わたしと、同じ……」

「……?」


 巫女が思わず呟いた。

 影尾はその言葉を聞き逃し、首をかしげたが、巫女はそれ以上語らなかった。








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