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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第11章 天哭ノ鏡

「……」

 だが、すぐに彼女の顔色が暗くなる。

「わたしは、いつまでもここに留まるつもりはありません」

「……、何と言った?」

 彼女の言葉に、鬼の黄金の瞳が攻撃的に光った。

 座る巫女を見下ろし、睨みつける。

「俺の前から消えるつもりか?」

 その声には、抑えきれぬ苛立ちが混じる。「逃げることを禁ずる」という自身の命令に対して、またもや反抗的な態度をとる彼女への怒りだ。

 彼の命令に背こうとする存在は、彼女をのぞいて他に無い。

 空気が強ばるのを感じる巫女だが、それでも堂々と相手に向き合い声をあげた。


「わたしは都(ミヤコ)を襲う人喰い鬼を討伐するためにこの場に来ました。ですが、あなたは──っ」

「黙れ!」


 しかし彼女が何か言いかける前に、鬼の手が素早く彼女の首を掴んむ。


 ググッ....!


 長い指が喉に食い込み、彼女の息が詰まる。


「んっ‥‥‥んん‥!」


 巫女は苦しげに顔を歪め、両手で鬼の腕を掴んだが、彼女の小さな手ではビクともしない。


「いなくなるのか?……っ……お前も」

「‥‥‥‥!」


 彼女の瞳に恐怖が宿る。

 それでも、なんとか目を閉じまいと耐えていた。

 彼女は、怒る鬼の深層に孤独を感じ、その誤解を解きたいと願っているのだ。


「‥‥ん‥‥ぅ、ぅぅ‥‥‥ッッ‥!」


「……」


 鬼は彼女の苦しむ様子をじっと見つめる。

 いとも簡単にへし折れそうな細首が、手の中でビクビクと震える感触──。


 ....ポタッ


 その時、彼女の目尻(マナジリ)から零れた涙が彼の手に落ちた。




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