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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第12章 追放されたモノノ怪

 屋敷の広間に残された巫女は、絹の布団に身を沈め、静かに息を整えた。

 昼の光が薄れ、格子窓の外は徐々に薄暗くなっていく。帳台の隙間から差し込む光は、まるで夕暮れのような茜色に変わり、屋敷全体を静寂が包み込んだ。

 白檀の香炉から漂う香りが、彼女の心をわずかに落ち着かせたが、胸の奥には言い知れぬ不安が広がっていた。

(また、鬼が境界を離れたようね…)

 鬼の気配が消えたことを、巫女は敏感に感じ取った。

 彼の重く冷たい妖気が、屋敷の空気からすっと抜け落ちる。

 彼女は目を閉じ、咄嗟に境界を抜け出す手立てを考えていた。

 だが、以前試みた逃走は失敗に終わり、今の自分では結界を破れない。そもそもそうと知っているから、自分を拘束するわけでもなく、鬼は姿を消したのだろう。

 出口は見えず、彼女の心は閉じ込められた鳥のようにもがいた。


「……?なに?」


 そこでふと、背筋に冷たいものが走る。邪悪な気配が、広間の空気をわずかに揺らしたのだ。

(彼とは違う、この気配は誰……!?)

 巫女は身を起こし、薄絹の几帳の隙間から外を覗く。



 そこには、音もなく立つ見知らぬモノノ怪の姿があった。

 初めて見る存在だった。



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