この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第12章 追放されたモノノ怪

それは、彼女と同じ年頃の青年の姿をしている。
肩上で切り揃えられた白髪が、薄暗い光にほのかに輝き、スラリと痩せた体躯はまるで影のように儚げだった。
屍人のように白い肌に、青い血管が浮き上がり、不気味な美しさを湛えている。彼の着物は黒に近い深緑で、裾が床を滑るように揺れていた。
「何者ですか」
巫女の声は鋭く、警戒心を隠さなかった。彼女の瞳には、相手に対する本能的な猜疑心(サイギシン)が宿る。
「さぁ、ただ、あんたの手助けをしようとな」
青年はニコリと笑みを浮かべた。
口元に浮かぶ笑みは、どこか不自然で、偽の温かみを帯びていた。
「怖がらなくていい」
「……っ」
スススッと着物の裾を引きずり、彼は流れるような動きで巫女に近づいてくる。巫女は手を上げ、制止の意を示した。
「止まりなさい。容姿も若くつくろっているようですが、あなたが膨大な月日を生きる狡猾なモノノ怪であると、わたしにはわかります」
彼女の言葉は鋭く、相手の秘めたる力を敏感に感じ取っていた。
その気配は、若々しい外見とは裏腹に、底知れぬ妖気を放っている。
青年の笑みが一瞬深まり、前髪の隙間から覗く目が鋭く光った。赤い瞳は縦に細長く、まるで蛇のようだった。彼が差し出した左腕には、銀に光る鱗が浮かんでいた。
「大蛇(オロチ)ですね」
巫女の声は冷静だったが、緊張が滲む。
大蛇(オロチ)はわずかに目を細め、感心したように口元を緩めた。
「よく知ってるな。人間の前に姿を現すのは稀(マレ)なんだが」
「そうでしょう。あなたたち大蛇は直接手を下すのではなく、その甘言で迷える人々を惑わし、悪事を働かせる」
巫女は寝具の帳台から出て、大蛇と正対した。

