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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第12章 追放されたモノノ怪

巫女は鏡を見つめて静かに尋ねた。
「その追放されたモノノ怪と、……彼は、どういう関係だったのでしょう」
大蛇は肩をすくめ、ニヤリと笑う。
「知らないねぇ。ずっと探し続けてんだから想い人か……と言いたいところだが、あの冷血漢にそんな感情があるとも思えない」
「……っ」
巫女は押し黙った。
彼女の心は、鬼の抱える渇望(カツボウ)に共鳴していた。この場に立ち、鏡と相対すると、不思議と伝わってくる。
何度も肌を重ねたことで感じた、彼の黄金の瞳の奥に潜む空虚さ──それは、何百年という時間を通した事で、ただの孤独や悲しみを超えた感情となっているのだ。
(来る日も来る日も、あの人は、いったいどんな想いで……っ)
彼女は鬼の心に触れたいと願い、同時にその深淵に怯えていた。
大蛇はそんな彼女の反応を面白そうに伺っていた。
赤い瞳が、まるで彼女の心を覗き込むように光る。
巫女はそっと鏡の縁に指を添えた。
キラッ....
その瞬間、鏡の表面が一瞬揺らぎ、チラリと “誰か” の姿が映し出された気がした。
長い生成色(キナリイロ)の髪、淡い着物、遠くを見つめる瞳──。だが、彼女は思わず目を背けた。
心のどこかで、その姿を見ることが、耐え難い苦しみを自分に与えてくるのではと、そう直感したからだった──。

