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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第12章 追放されたモノノ怪

巫女は躊躇(タメラ)った。
だが、鬼が抱えるナニカを知りたいという思いが、彼女の足を動かしたのだ。
彼女は大蛇の後に続き、薄暗い廊下を進む。几帳の揺れる音が背後に遠ざかり、屋敷の空気はさらに重く冷たくなる。
大蛇は無言で歩き、床の一角に隠された跳ね上げ式の戸を指差した。
ギィと軋む音とともに戸が開き、石造りの階段が闇の底へと続いている。巫女は一瞬立ち止まり、冷たい空気に身を震わせたが、大蛇の赤い瞳が振り返り、促すように光る。
彼女は意を決し、階段を降りた。
地下の部屋は、静寂と妖気に満ちていた。中央に、一つの鏡が祀(マツ)られていた。
(これは何……?)
鏡は、暗闇の中でさえ神々しく光っている。
巫女は息を呑み、驚きに目を見開いた。
(この鏡は神器だわ…っ。まさか、どうして彼が持っているの?)
人の世で神々に祀られるべきものが、なぜ鬼の屋敷にあるのか。彼女の心に、疑問と不安が渦巻く。
「この鏡は人界に繋がっているらしくてね」
大蛇が静かに喋り、天哭ノ鏡を指で示した。
彼が言うように、鏡の中には人の世の風景が映されていた。
「鬼王はこれを覗いて、来る日も来る日も、一匹のモノノ怪を探しているらしい」
巫女は困惑する。
「それは、800年もの間、彼が探し続けているという……?」
「そうさ」
大蛇は低く笑い、遠い過去の話を始めた。彼の声は軽薄だったが、言葉の奥には重い真実が潜んでいるようだった。
「昔──あるモノノ怪が、人間からこの鏡を盗み、鬼界に持ち込んだ。そのせいで……まぁ詳しいことは知らないが、神の祟りとかいうやつか? 鬼界に呪いが広がったんだ」
その呪いを鎮めるため、モノノ怪は殺され、永遠に鬼界を追放されたのだという。

