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わたしのお散歩日記
第14章 社員旅行
 投げキッスなんかするもんかと思ったそのとき『〇子ちゃーん』とわたしを呼ぶ声が聞こえました。誰かはわかりません。次の瞬間、わたしも生まれて初めて投げキッスをしてしまっていました。ライトが眩しくてお座敷がよく見えないのをいいことに…。

 『アン、アン、アン…。アン、アン、アン…』

 唄のパートに入ると宴会場は熱く盛り上がっていったようでした。腰に手を当てて左右に振る仕草に声援が飛んできます。

 『いいぞ、いいぞ!』
 『もっと振って、振って!』

 視線こそよくわからないものの、熱気や声援が、直接、肩や腕や太腿に突き刺さるようでした。そんな中でも隣の子は、投げキッスを連発したり、腰をことさら大きく左右に振ったりしています。

 『ハッスル! ハッスル!』
 『両脇も頑張れ!』

 『両脇』というからにはわたしだけじゃない…と思いましたが、真ん中の子に比べて踊りが見劣りしていることはわかりましたから焦りました。唄は2番に入りました。

 『〇子ちゃん、頑張れ! △子ちゃんに負けるな!』

 まぶしい光の中からわたしを応援する声が聞こえました。今度も誰の声かはわかりませんでしたが、その分、誰かわからない人もわたしを応援してくれていると思いました。

 (恥ずかしがってばかりもいられない。頑張らなきゃ…)

 『アン、アン、アン…!。アン、アン、アン…!』

 わたしは1番のときよりも声を張り上げお尻をいっぱい振りました。脚も上がるだけ上げました。スカートが短いのも忘れて。手拍子の音がさらに大きくなったような気がしました。どよめきのような声も聞こえた気がしました。

 『アン、アン、アン…!。あなたと~わたし~。アン、アン、アン…!。見つめ合って~…』

 三番もいよいよ終わりました。顔の見えない相手との熱気の交換のなかで、わたしは羞恥心だけではなく奇妙な高揚感も感じ始めていました。いよいよ終わりかと思ったら、テープが編集してあったみたいで、また、一番に逆戻りしました。わたしは、今度は恥じらう気持ちよりももっと強いものに衝き動かされて歌って踊っていました。

 『アン、アン、アン…!。あなたと~わたし~。アン、アン、アン…!。溶けていく~…』
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