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ぬくもりの余韻
第2章 湯気の向こう、ひとしずく
「背中、流そうか?」
脱衣所の戸を閉めた柊が、少し照れたように言った。
小さなころ、砂場で泥だらけになった私たちは、よく一緒に銭湯に行ったけれど。
二十五になった今、それはまるで違う意味を持っていた。

湯気にぼやけた視界の向こうで、柊が静かに桶に湯をくむ。
その手つきすら、やけに男っぽくて、胸の奥がきゅっとなった。

ぬるく張った湯に、そっと脚を滑らせると、隣で彼も同じように身体を沈めてくる。
肌と肌が、かすかに触れた。
ほんの一瞬のことなのに、熱が、思っていた以上に広がっていく。

「……大人になったなって、思うよ」
ぽつりと呟く柊の声が、湯に沈んだ私の肩を撫でるようだった。

髪を結い上げた襟足に、そっと唇が触れた。
お湯よりも熱く、でも優しい。
逃げる理由も、拒む余地もなかった。

湯けむりのなかで指先が泳ぎ、肩から背へ、背から腰へ。
すべてを洗うふりをして、触れられるたび、心が先に裸になっていった。

「もう少しだけ、このままでいい?」
彼の声は、湯に溶けるように低くて甘かった。

私はただ、うなずいた。
湯気の向こうで、ふたりの吐息が溶けあっていく音が、静かに響いていた。
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