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火照りが引かないあなたに
第4章 夜の残り香
狭いアパートの部屋。壁に映る自分の影がやけに細く見えて、たまに息が詰まる。
彼女がいた頃は、部屋が暖かかった。湯気の立つ味噌汁や、柔らかいタオルの匂い――そんなものに守られていた気がする。

夜十時、ソファに沈みながら、缶チューハイを口に運んだとき。
ポケットの中で、スマホが震えた。

画面には、見慣れた名前が表示されていた。
「千紗」

一瞬、心臓が跳ねた。迷いながらも、通話ボタンを押す。

「……もしもし」

『……まだ、起きてた?』

声はかすれていた。泣いたあとのような、夜に溶け込むような声。
彼女のことが、すべてフラッシュバックする。

「どうした、こんな時間に」

『なんとなく……声、聞きたくなったの』

ほんの一拍の沈黙が、胸に染みる。

『今、ひとり?』

「うん。そっちも?」

『うん……ねえ、そっち行ってもいい?』

答えるより早く、俺の心はもう頷いていた。
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