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大きなクリの木の下で
第9章 由里子の家

料理が得意と言うだけあって
登喜子の手料理はどれも美味だった。
だけど、何か物足りない。
旦那も登喜子から先割れスプーンで口に料理を運んでもらいながら、口を「への字」にしながら咀嚼していた。
見るからに不味そうな食べ方であった。
そこで、ふと、違和感を言葉にしてみた。
「由里子さん…出来ればその…スプーンではなく、お箸で食べさせてもらえませんか?」
「えっ?お箸?
あの…私が使っているこのお箸でいいの?」
やぁねえ…両親を目の前にして間接キスみたいな事をさせないでよと、その目には戸惑いがあった。
「お母さんも是非、スプーンではなくお箸で旦那さんのお口に料理を運んであげてみてください」
「えっ?私たちもお箸で?」
「ええ、先ほどから味付けなんか抜群なのに
なぜか違和感を感じていたんです
肉じゃがを食べているのになぜかカレーを食べているような…そんな違和感とでも申しますか…」
「私が口をつけたこのお箸で本当にいいのね?」
そんな風に戸惑う言葉を投げ掛けながらも
間接キスを楽しむように肉じゃがを箸でつまんで口に運んでくれた。
「うまい!!」
先ほどと同じ料理とは思えないほど
口の中に美味が広がってゆく。
「味に変わりはないでしょうに」
お母さんも怪訝そうな顔をしながら自分の箸で旦那の口に料理を運ぶ。
「うまい!!」
竹本と同じセリフを言いながらお父さんは訪問してから初めてといって言いような満面の笑みを浮かべた。

