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大きなクリの木の下で
第1章 初めて見せた弱さ

立ち去ろうとする彼の背後に向かって
まだ話しは終わっていないのよ!と叱責しようとした瞬間、
デニムの尻ポケットに入れてあるスマホがブーブーとバイブで震えた。
ディスプレイには『父』という文字が表示されていた。
『お父さんからだ!
検査結果が出たのね』
静香は急いで画面をタップして通話に出た。
「お父さん?検査の結果はどうだった?」
昨日から父の宗一は病院に検査入院していた。
ここ数ヶ月、疲れが取れなくなって不眠が続いていたので、
医者嫌いの宗一をたまりかねて静香が無理やり病院に連れていったのだ。
- まいったよ…癌だって… -
その言葉を聞いて静香は『やっぱりそうだったのね』と
ある程度は覚悟をしていた。
- 夕方、少し早めに仕事を終えてこっちに来てくれないか?
主治医の先生から説明があるそうだ -
「わかりました…なるべく早くそちらに向かいます」
通話を終えようと画面をタップする手が震えているのに気づいた。
私がしっかりしないと…
唇をキユッと噛み締めて静香は早退を願い出るために校正部に急いで戻った。

