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大きなクリの木の下で
第1章 初めて見せた弱さ

校正部の部長に早退の旨を申し出て、
静香は足早に父の宗一が検査入院している総合病院に駆けつけた。
病室に飛び込むと父がベッドの上にちょこんと座ってカーテンを開いて窓から外の景色をボンヤリと眺めていた。

「お父さん!」

「よぉ!来てくれたのかい?
悪いなあ、今は仕事が忙しい時期なんだろ?」

「そんなの、どうだっていいのよ!
家族の一大事なんだから全てを投げ打ってでも駆けつけるわよ」

「家族…ねえ…
こんなことになるなんて静香を養女に迎えるんじゃなかったよ
ははは…バチが当たったのかねえ…」

「何バカなことを言ってるのよ」

静香は父を励ますために同じようにベッドに腰かけて並んで座り、愛しい父の肩をギュッと抱き締めた。

静香の本当の父母は、彼女が中学二年の時に旅行先で交通事故に遭遇して命を落とした。
遠い親戚しかいなかった静香の保護者になろうという血縁者は誰一人として名乗りでなかった。

そんな時、父の友人だった雨宮宗一が
「静香ちゃん…良ければ私の娘になるかい?」と
養子縁組を申し出てくれた。

これ幸いだとばかりに、親戚の者たちは静香の意向を聞きもせずに、さっさと宗一との養子縁組を決めてしまった。
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