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大きなクリの木の下で
第4章 文豪 中岡清史郎

「お邪魔いたします」
玄関を開けると初老の男が仁王立ちで二人を待ち構えていた。
「先生!この度は誠に申し訳ありませんでした!!」
お菓子の袋をサッと静香に手渡すと、
編集部の男はガバッとその場に土下座した。
「これこれ、若い男はそう易々と土下座などするもんじゃない!
それに、お前に土下座されても少しも嬉しくはない!」
そう言うと大御所の大作家先生とやらは、
分厚いレンズのメガネの奥から
居抜くようにギョロリと静香を睨んだ。
まるで土下座せねばならんのはお前だろうが!と
無言の圧力をかけた。
編集部の男は、素早く手土産の菓子折りを奪い返すと
「先生、これ、つまらないものですが…
お口に合いますかどうか…」と献上するかのように土間に膝をついたまま差し出した。
「ふん!八幡堂の最中か…
いつもいつも、バカの一つ覚えのように…」
くだらん真似をしおって…
そう言いながらも嬉しそうに菓子折りを奪うと胸に抱きかかえた。
「まあ、ここじゃなんだから、奥へ来なさい」
頭のてっぺんから爪先まで舐めるように静香を見下ろして
「今の若い女は礼儀もしらないようじゃのぉ」とブツブツ文句を言いながら奥の間に進んでいった。

