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大きなクリの木の下で
第4章 文豪 中岡清史郎

情事を終えた二人は狭いソファに体を寄せあうように抱き合っていた。

「君は良い女だねえ
さぞかしモテるんだろうな」

「いえ。そんな私なんて…」

不意に意中の竹中が自分に見向きもせず、
親友の美代子を選んだことを思いだし涙ぐみそうになった。

「しっかりと作家に対して物申す度胸といい、校正なんぞやらせておくのはもったいない。
どうだ、儂が出版社に君を儂専属の編集者に推挙してやろうか?」

「残念でした、私、校正の仕事が好きなんです
それに、編集に回ってしまったら一緒に来た男みたいに先生にへつらってしまうかもしれません。
そうなってしまうのは先生にとっても喜ばしい事ではないのではありませんか?」

「まあな…儂の担当になってくれれば、好きな時にお前を呼び出して抱けると思ったのだが、そうは問屋が許してくれないみたいだな」

「そんなに私を気に入っていただけて光栄です
でも、安心して。
また私の校正が気に入らないと言って呼び出してくれたら、いつでも喜んで駆けつけますわ」

「こんな、おじいちゃんなのに?」

「私ね…ファザコンっていうか…年配の男性が好みみたいなの」

そう言って中岡の加齢臭を楽しむかのように
彼の胸に顔を寄せて体臭を楽しんだ。

だが、昨夜、美代子に逝かされまくった上に
竹本を寝とられた事を知って一睡も出来なかった体は悲鳴をあげていた。
そのまま迂闊にも静香は中岡に抱かれながら眠りに落ちた。

次に静香が目覚めた頃には、すっかりと陽が西に傾き、
窓からの夕焼けの光で起こされたようなものだった。

「いけない!私、寝ちゃってたわ!」

ガバッと飛び起きると、中岡が着衣をさせてくれたのか
すでに全裸ではなかった。

中岡は静香から離れてテーブルの上の原稿用紙にカリカリとペンを走らせていた。

「おや、お目覚めかね
ずいぶんと疲れが溜まっていたんだね
爆睡しておったよ」

「すいません!私ったら初めてお邪魔したお宅で居眠りしちゃうなんて…」

「かまわんかまわん。
居眠りするほど儂に気を許してくれたということじゃないか
それにね、お前の寝顔を見ているうちにインスピレーションが湧いてきたね、早速にも新作の執筆に取りかかったところなんじゃよ」

原稿用紙にペンを走らすその目は少年のように輝いていた。 
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