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まぶたに灯る夜
第2章 グラスの中の夜
共有スペースに差し込む照明は、どこか仄暗くて柔らかかった。数人の寮生が輪になり、グラスを鳴らし合う。笑い声、焼き鳥の匂い、そしてアルコールが混ざる空気。

私は陽菜の隣にいた。彼女の肩先が、私の肩に時おり触れるたび、胸の奥に火花が散る。

「もうちょっと飲んでみる?」と陽菜が笑って、私のグラスにワインを注いだ。

頷いて飲んだその一口で、私の頬は熱を帯び、視界がふわりと揺れた。陽菜が静かにグラスを置き、私の髪に触れた。

「顔、赤いよ」

彼女の指先が私の頬に触れた瞬間、全身がびくりと震える。心臓が音を立て、呼吸が浅くなる。

「……ちょっと酔っただけ」

そう言ったのは私なのに、陽菜の瞳はずっと私の奥を見つめていた。まるで心の奥底まで覗かれるような、強くて優しい視線。

「送っていくね」

私の肩を抱くようにして、陽菜が自室まで連れて行ってくれた。廊下を歩くたび、彼女の手の温もりが私の肌を伝って体の奥に染み込んでいく。

部屋のドアを開けると、陽菜がそっと私を寝台に座らせた。静かに、でも確かな手つきでブランケットをかけてくれる。

「ありがとう」

その言葉の直後、陽菜の唇が私の頬に触れた。ちゅ、と音を立てるほどの、短く甘いキス。

「ごめん、つい……」と陽菜が言いかけたとき、私は目を見開いた。けれど、言葉より先に彼女が私の唇を塞いだ。

柔らかくて、甘くて、どこか切ない。唇が重なるたび、鼓動が速くなる。陽菜の指先が、私の肩から鎖骨へと滑り落ち、熱が生まれる。

吐息が混ざる空気。手が肌を滑るたびに、私は思わず唇を押さえて、声を抑えた。けれど、それは逆に快感を強調する。

「……もっと、知りたい」

陽菜の声は、囁きよりも熱く、まるで身体の奥に直接語りかけるようだった。私も、彼女の首筋に指を這わせる。

ふたりの世界に、夜が深く染み込んでいった。
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