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雨夜に灯る
第1章 静かな雨と背表紙と

雨脚は、静かに、けれどしっかりと窓を叩いていた。
久しぶりに帰ってきた地元の街。傘を持たずにふらりと歩いていて、美沙は商店街のはずれにある小さな書店の軒先に逃げ込んだ。
店内には鈴の音がやさしく響いた。
古い木の棚と、少し湿気を帯びた紙の匂いが心地よい。
「いらっしゃいませ」
奥のレジカウンターから声がした。
振り向くと、ひとりの若い女性が立っていた。
髪は短く、くしゃっとした前髪の奥から、まっすぐな黒い瞳がこちらを見ている。
言葉は控えめだったのに、その視線だけが、なぜかやけに熱を持っていた。
「濡れました? タオル、ありますよ」
彼女は小さな棚の横を回り込むようにして、美沙のそばにやってきた。
自然な距離感。だけど、どこかで鼓動が早くなるのを、美沙は否定できなかった。
「いえ、大丈夫です。すぐ乾きますから」
そう言いながら、美沙は適当な棚に視線を落とした。
どうでもいい装丁の本の背表紙が、目に入ってこない。
代わりに隣に立つ彼女の体温の気配だけが、やけに近くに感じられた。
久しぶりに帰ってきた地元の街。傘を持たずにふらりと歩いていて、美沙は商店街のはずれにある小さな書店の軒先に逃げ込んだ。
店内には鈴の音がやさしく響いた。
古い木の棚と、少し湿気を帯びた紙の匂いが心地よい。
「いらっしゃいませ」
奥のレジカウンターから声がした。
振り向くと、ひとりの若い女性が立っていた。
髪は短く、くしゃっとした前髪の奥から、まっすぐな黒い瞳がこちらを見ている。
言葉は控えめだったのに、その視線だけが、なぜかやけに熱を持っていた。
「濡れました? タオル、ありますよ」
彼女は小さな棚の横を回り込むようにして、美沙のそばにやってきた。
自然な距離感。だけど、どこかで鼓動が早くなるのを、美沙は否定できなかった。
「いえ、大丈夫です。すぐ乾きますから」
そう言いながら、美沙は適当な棚に視線を落とした。
どうでもいい装丁の本の背表紙が、目に入ってこない。
代わりに隣に立つ彼女の体温の気配だけが、やけに近くに感じられた。

