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切り裂かれた衣
第5章 星空の下で
 匠の心臓の鼓動を感じ、その音がハッキリと聞こえる。衣美も自分の心臓が高鳴っている。きっと匠も自分の存在を強く意識してくれてるのだろうと衣美は思った。

(男の子って……固いな)

 匠の体はがっしりとしていた。細身のイメージとのギャップに衣美は思わず顔を赤くした。

 しばらく二人で抱き合ったまま時間が止まる。いつまでもこうしていたいくらいに衣美は幸せな時間だった。そして、匠の顔が一度離れると今度はゆっくりと近づいてくる。

 衣美はハッとして、そっと目を閉じた。

(キスだ……)

 そう直感して待ち構えていたがふと思ったことがあり、パッと目を開ける。

 近づきかけていた匠の顔を手で押さえながら「待って!」と言った。

「えっ!」

 突然キスを拒絶された匠は困惑と失望の表情で衣美を見る。衣美は「違うの」と首を振ってから今度は自分から抱きついた。

「あのね……それは……今夜にしない?」

「……」

 匠の鼓動が早くなるのを感じる。衣美はギュッと彼を抱き締めて恥ずかしそうに言った。


「ほら……その方がロマンチックでしょ。流れで……最後まで……するなら」

 衣美は顔を真っ赤にして匠の肩に自分の顔を埋めた。

(私ったら……何言ってんの……はしたない……)

 最初は「キス待ち」の顔をして見せつつ、お預けをしてからのこんな提案をしてしまう自分は匠以外の人には見せられないなと思う。そもそも「キス待ち」顔は間抜けではなかっただろうかと顔が火照ってしまった。

「わかった……いいよ」

 今度は匠が抱き締めてくる。

(……幸せ。大好きだよ……お兄……匠)

 二人がひとつに慣れたら。「匠」と呼ぼう。

 衣美はそう思いながら微笑んだ。

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