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リクエストのラストワルツ
第2章 姉のようなひと

 翌日の土曜日、慎也は予定どおり午前中にダンス教室に行ったが、レッスンには全く身が入らなかった。

 出勤日の冴子がそこにいないことはわかっていたが、無意識のうちにその姿を探してしまううえ、それに加えて、前日にできなかった冴子のマンションでの夕食を改めて誘われていたからだったが、女性、それもひとまわり近く歳上の冴子からこれほどまで積極的に誘われることが慎也には不思議で仕方なかった。

(あんなきれいな人がなぜ… 実は怖い彼氏がいて脅されるんじゃないかな…)

 嬉しい反面、一抹の不安も頭をよぎったのである。

 それでも彼は夕方までの時間をたっぷり使って悩んだ結果、コスモスとカスミソウの花束とワインを持って行くことにした。
 そして、シャワーを浴びて、少しだけ気の利いたシャツとパンツに身を包んで寮のアパートを出ると、歩いて10分ほどのところにある冴子の待つマンションへ足を向けた。

 アパートを出るときに社員の誰かに見つからないかと心配したが、幸い誰にも会うことなくマンションに着くことができた。

 約束の午後7時に、慎也は一度大きく深呼吸してからエントランスのオートロックのインターホンで部屋番号を押した。

「いらっしゃい、開けたわよ」

 すぐに明るい声で冴子の返事が返ってきた。

 オートドアの正面の4人も載れるかどうかというような小さなエレベータを3階で降りてホールをどっちに向かおうかと迷っていると玄関のドアを開けた冴子が「こっちよ」と手招きしてくれている。

 白のトップスとひざ丈の明るいブルーのスカートが夜目にも慎也には眩しく映った。
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