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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜

 慎也を送り出すと出勤の準備をしながら冴子は思った。

(わたしは彼をどうしようとしているのだろう…
 この先、彼が偉くなって円熟した頃、わたしは60を過ぎたおばあちゃんだわ…
 彼もいつまでも夢中になってくれているわけがないし…)

 仕事柄、あまり化粧はできなかったが、さらにその手が時々止まると、今は考えるのを止そうと思った。

(きっと彼も迷っているはず…)

 僅か10日足らずの間に深く落ちた恋に冴子自身も戸惑っていたのだった。


 いつもどおり、中古で買ったライムグリーンのトヨタのアクアを始動させる。
週明けの月曜日はいつもより少しだけ早い。

(気候が穏やかになったら彼とドライブしようかしら)

 どこへ行こうかと考えを巡らせていると少し気持ちが落ち着き、普段どおりにクリニックに着くとモードはすぐに切り替わった。
 冴子の新しい1週間の始まりだった。

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