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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜

アパートに帰った慎也は、まだ時間があったので軽くシャワーを浴びようとしていた。
 気づかない冴子の香りが体に残っているような気がして、そのまま出勤すると敏感な女子社員に怪しまれるのではないかという不安があったのである。

 再び借りることになった彼女のショーツを脱ぎながら、それを返そうかどうしようか迷っていた。
 小さなリボンさえついていなければ、自分のものとさほど変わらないと思えるシンプルに小さく収まるそれを、できれば思い出にとっておきたかったのだ。
姉妹もないうえ女性経験がないに等しかった慎也にとって、冴子が身に着けている下着は小さな宝物のようでもあった。

 データ処理や分析が主業務の慎也は営業職でないため、ほとんど外出することはない。
基本的に一日中、各営業所などから届く数値と格闘するデスクワークで、人との会話も多くはなかったが、それは彼の性格に向いていたし、採用された理由でもあった。

 会社ではそんな毎日なだけに冴子との突然の出会いとその後の予期すらしない展開は彼のこれまでの人生の中ではあまりにも衝撃的なことで、モニターに向かっている間も少し気を抜くと冴子の顔がちらつき、前夜のことを思い出すと固くなったものが頭を持ち上げてくるのだった。

(今度の土曜日どうしようか…)

 泊まりに行くことは約束したが、ふたりで過ごす時間に何の計画もなかった。
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