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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜

「冷たいジュースでいい? ビールもあるけど」
「ジュースがいいです」

 お酒は夕食のワインで満足していた慎也だった。

 濡れたショーツを替えてくると言った冴子は脱衣所から戻ると、口移しでジュースを慎也の口に運んだ。
 冷たいような生温かいような不思議な感覚が慎也の喉を潤した。

(あのとき以外はほんとうに優しいお姉さんのようだ)

 唇をしっかりと重ねながら慎也はそう思うのだった。

「こんな夜に慎也くんがいてくれてほんとうにうれしいわ」

 雨が一段と激しくなってきていたからだが、それは慎也も同じで、こんな時に彼女と一緒にいられることがたまらなく幸せだった。
 これから自分たちはどうなっていくのだろう、という思いはいつも頭の片隅にあったが、今は何も考えないでこの幸せな時間を大切にしようと思うのだった。


 
 ドレープカーテンが一瞬かすかに明るく透けたと思った瞬間、闇を切り裂く激しい炸裂音とともに部屋が振動した。

「怖いっ!!」

 同時に冴子は思わず慎也に抱きついていた。

「大丈夫、ぼくそばにいますから」
「良かった、ほんとに、慎也くんがいてくれて…」

 立て続けに響く大きな雷鳴の間、慎也は身じろぎもせずに強く冴子を抱きしめていたが、やがてキスをしたまま彼女をベッドへ抱え上げてそっと下ろす。
 普段の毅然とした冴子が怖がっているのが、心の底から可愛いと思うとたまらなかった。

 吹き荒れる風にあおられて窓を叩く雨粒の音がやがて収まるまでの間、冴子はおそらくその音がなければ近所に聞こえていたと思えるほどの絶頂の叫び声を数えきれないほどあげた台風の夜だった。

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