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紅蓮の夜に、君をさらう
第1章 炎の宮殿、出会いの夜
夢なんて、最初からなかったのだ。

私の人生は、国のための捧げもの――そう言われた気がした。

それから私は、よくため息をつくようになった。

机の上には、婚姻相手となる蘇圓月の書面。

名前の横には、彼の肖像画が描かれている。

中肉中背。背は低めで、顔立ちは……美男子とは程遠い。

お姉様の話だと、実物はもっと不細工なんだとか。

「女中泣かせの目つきをしている」とまで言われている。

ああ――。

こんな相手との結婚に、どうして夢を見られるというの?

「……あーあ。結婚に夢を見れないなら、どうして皇女に生まれたのよ……」

書面を持っていた手の力が抜ける。

ふわりと風にあおられた紙は、目の前の池――いや、沼へ落ちていった。

浮かぶ紙の端を見つめながらも、拾う気力すら湧かない。

この結婚、なかったことにしてもらえないかしら。

――そんな淡い願いも、風と一緒に遠くへ流れていった。
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