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恋かるた
第2章 ひとりかも寝む -神無月-

あわただしく1か月が過ぎ、気がつくと沢田の家を訪問する日曜日になっていた。
予期せぬ再会に心が乱れたのも数日で収まり、普段どおりの生活に明け暮れていたが、
さすがに再訪の日が近づくと志織は落ち着かなかった。
「気をつけていってらっしゃい」
出がけに声をかけた瑞穂が勉強机から顔を上げて志織を見送ってくれた。
駐車場でエンジンをかけようとした彼女は、どこからともなく香ってきた遅い金木犀の香りに気づく。
(もう10月も終わりだし…)
そんな香りにさえ振り返る余裕がなかったのかなと思った。
1か月ぶりに訪問した沢田の家は、前よりもさらにきちんと整理がされていた。
(何もすることがないわ)
彼に迎え入れられてダイニングへ向かう間のわずかな時間に志織はそう感じていた。
「報告書が書ける程度に適当でいいから」
キッチンカウンターの横に立ったまま沢田が笑いながら言った。
「でも2時間もいただいているので、しっかりやらせていただきます」
「作業は1時間半で終わって、そのあと30分は雑談の相手してくれる?」
志織が応えるのを受けて、沢田が注文を付けた。
「え?」
想定外のリクエストだった。
なんとかはぐらかすと、沢田は前回と同じように自室へ姿を消してくれたので、深呼吸をひとつしてから志織は作業の手を動かし始めることができたのだが、どこも予想以上にきれいになっていて困惑するばかりだった。
あまり使われていないのかレンジフードのフィルターさえも志織が前回きれいにした状態とあまり変わりはなく、依頼されていた水まわりのクリーニングは1時間もすると全て終わってしまった。
「失礼します」
「はい、終わったの?」
沢田が返事とともに自室ドアからすぐに顔を出した。
「きれいにしていらっしゃるのであまり何もさせていただいていませんが…」
当惑顔で志織が彼に報告をする。
「できれば水回り以外のお掃除とかさせていただきますが…」
残りの1時間を遊んでいるわけにはいかないので志織は別作業の申し入れをしてみたのだが、沢田は笑いながら首を振った。
「まあいいから、あっちに座ってて」
先日と同じダイニングの椅子を指差して彼が言うので、素直に従うことにした志織は手だけ洗わせてもらった。

