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恋かるた
第3章 ものや思わむ -霜月-

 小学生の頃から志織は本を読むのが好きだった。

 中学に入ると学校の帰りに途中の小さな書店へ寄っては立ち読みをしながら気に入った文庫本をよく買ってきていたので店主とも顔なじみになって、お薦めの本を教えてもらったりしていたのである。

 母親も文学少女だったようで、家には小倉百人一首のかるたがあったから、正月には家族で遊ぶこともあったことがきっかけで、和歌の魅力に惹きつけられ高校ではかるた部に入ったのだった。



 買い物ついでに自宅のマンション近くのモールにある書店に志織は寄ってみた。
 
 本屋さんを覗くのも久しぶりだ、と思いながらその足は百人一首関連の本を探しあて、解説本をぱらぱらとめくりながら、忘れていた学生の頃を思い出していた。

(帰ったら探してみよう)

 志織はそんなことを思いながら日曜の午後の家路についた。



「あれ? 帰ってたの?」

「うん、午前中だけだったの忘れてた」

 帰りは夕方だと言っていた瑞穂が家にいたので志織は驚いたが、相変わらず彼女は明るい顔で受け流した。

 娘の屈託のない笑顔は志織の最大の心の支えだった。


「ねえ、うちにかるたあったよね?」

 おやつ代わりの小さなチョコレートを口にしながら志織が瑞穂に訊いた。

「かるた? え? 百人一首ならわたし持ってるよ」

「そう、それ」

「おかあさんが昔、私にくれたわよ」

 そういえば瑞穂がまだ幼かった頃、志織の使い込まれて傷んでいた百人一首の絵札の華やかな美しさに、意味もわからないまま喜んでいるのを見て、彼女の誕生日にプレゼントしたことがあったと志織は思い出した。



「急にどうしたの?」

「ちょっと見てみたくなったの」

 ふ~ん、と言って瑞穂が探して差し出してくれたベンガラ色の小さな箱は汚れもなかったが、志織はそれを懐かしむように掌に置いて蓋を開けた。



『しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで -平兼盛-』


(これ男歌だけど、今の自分の気持ちと同じだわ)

一番上の絵札がすぐ眼に入った志織は、思わずそう思った。

 もしかして顔に出たりしてないかしら、と娘の前でにわかに気になったが、瑞穂は久しぶりに見る絵札の色鮮やかさに改めて感嘆の声を上げているだけだった。
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