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恋かるた
第7章 いかに久しき -弥生-

「やっと受けてくれたのね」
「ありがとうございます。 頑張ります」
志織は強く登用推薦してくれた井川に礼を言った。
業務委託のメンバーから正社員への登用希望は少なくはなかったが、登用に際しては客先評価などを含めた上司の推薦が必要なため、実際に登用されるケースは多くなかったし、1週間で辞令が出ることなどほとんどなかった。
「それで… このお客さまたちは引き続き担当をお願いできるかしら?」
井川から渡されたリストには5件の客先が書かれていて、その中には沢田の名もあった。
「お客様から、松石さんじゃないなら解約する、って… だからお願い」
「はい、大丈夫です。 喜んでお受けします」
「ありがとう。 松石さん、絶大な人気だから」
声を出して笑う井川に志織はもう一度頭を下げた。
>>引き続き担当させていただくことになりました
>良かった
あなたの仕事はちゃんと評価されている
>>ありがとうございます
申し入れして下さったとうかがいました
志織は沢田にお礼のLINEを送った。
こうして志織の4月からのフルタイム勤務は決まった。
特別なことがない限り、志織は瑞穂と朝晩の食卓を一緒に囲むようにしている。
「4月からフルタイムになるけど、いい?」
「良かったね。 わたし、ちゃんと起きるから」
「そうしてちょうだい」
収入面では2倍以上になるし保障面でも安心感が大きくなる反面、時間面では融通が利かなくなるのが志織には不安だったが、高校生になれば瑞穂がもっと助けてくれるだろうと思った。
合格発表まであとわずかだったが、お互いにその話題には触れなかった。
「3月は今のままなの?」
瑞穂が訊ねる。
「そうよ、4月から正社員」
「じゃあ、春休みのうちにどこか行こうよ」
「そうね、これから休めなくなるしね」
「考えとくね」
その夜は母娘の和やかな会話で深まっていった。
そして、
ついに合格発表の日が来た。
仕事にならないと思って休日にしていた志織はただひたすら瑞穂からの連絡を待った。
やがて10時を少し回ったとき、志織のスマホが鳴った。
(落ち着け…)
手が震えて落としそうになった志織は自分を鎮めてから電話に出た。

