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恋かるた
第1章 時めぐりきて -長月-
 
 暗くなったオフィスの明るい一画で2年先輩の山際美沙とプロモーションの打ち合わせをしている志織のところへ、少し離れた席いた沢田がやってくると、そのコンテを見ながら志織の頭越しに美沙へ何か言っているが、その声がよく聴き取れない。

 志織が見上げた彼は、彼女に一瞬微笑んでから再び山際と話を続けている。
 美沙はデスクに眼を落としたままだったが、小さくうなずきながらその顔はわずかに紅味を帯びているように見える気がした。

 はっきり聴こえた「じゃあ」と言う声だけ残して、やがて沢田が美沙と志織に笑顔を向けると自席へ戻っていく。

 気がつくと、暗い中で何人かのスタッフがデスクスタンドの灯りを頼りにまだ仕事をしていたし、なぜかその中には今の上司の井川眞規子までいたが、まもなく沢田が席を立つと
少しだけ遅れて隣の美沙も黙って席を離れ、沢田の入った会議室に向かって行った。

(またわたしは呼ばれない…)

 いつも覚える小さな嫉妬を感じたとき、志織は眼が覚めた。



(夢か…)

 枕元の時計を見ると、2時を回ったところだった。

(沢田さんの夢を見るなんて初めてかもしれない…)

 仕事で尊敬し、憧れてもいた美沙とは毎週のように食事に行くほど仲も良かったが、当時沢田に惹かれていた志織は、その信頼の厚い彼女にいつも引け目を感じていた自分を思い出した。

 美沙も沢田も既婚だったので嫉妬する必要はないはずだったが、なんとなくふたりの関係を詮索する者もいないわけではなかったのである。

 
 15年ぶりに、昔と変わらないままの精悍さと穏やかさを保ったままの、むしろより一層の深味を感じさせた沢田に思いがけない形で再会し、夢に現れたことで志織は体が熱くなるのを覚えた。

(あ、ちょっと変かも…)

 パジャマにこすれた胸の先端がむず痒く感じる。

 ショーツの中の小さな蕾もいつもと違う…

 もともと性的な欲望は強くなかったし、日々の生活安定に必死だった頃は、自分を慰めることなど意識の中から外れていたうえ、少し落ち着くようになってからも自然と封印していて、時々寝付けないことがあったときに睡眠剤代わりにすることがある程度だったのに、その夜は意図せずそれが解かれてしまったのだった。
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