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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第14章 快楽のトリガー
カラオケ店を後にすると、人の声と笑いが夜の空気を押し上げていた。

信号が赤に変わっても渡ろうとする人に鳴らされるトラックのクラクション、「二次会に行く人ー?」と居酒屋の前にいる学生。

そのすべてが、現実の中にいることを思い出す。

彼らは灯りに集まる虫のようだった。

一方で、裕樹は楓に手を引かれ、灯りに群がる人波をするりと抜けて、ビルの影の中へと進んでいく。

すれ違う人の数は徐々に少なくなり、楓と裕樹は並んで歩幅を合わせて歩けるようになった。

手を引くように繋いでいた指先は、絡まり合うように一つの形になり、繁華街へ引き返すという選択を鎖ざされたように感じて、裕樹の心は震えていた。

夜にぼやけて浮かぶネオンの色や、石板に刻まれたようなSTAY、RESTという文字が多く目に入るようになる。

ネオンの色がじわりと夜気に滲み、通りを行き交う声が遠のきはじめたころ──

楓の手がふっと緩み、裕樹はその場で足を止めた。

「……ここ、入ろっか」

視線の先にあったのは、繁華街の喧騒から僅かに離れた場所に立つ、白い石細工のような壁を持つホテルだった。

他の店のけばけばしい看板とは違って、壁は滑らかで艶があり、壁面には西洋の彫刻を思わせる浅い装飾が流れるように刻まれていた。

丸窓の縁には繊細なレリーフ。

まるで教会と館が混ざったような、不自然なほど静かな品の良さ。

自分よりも一回り上の女性と、これからどこで何をするのか、裕樹はすべて分かっているはずなのに、それを認めるのは少しの怖ささえあった。

アルコールを含んだわけではないのに、胸の内側からそわそわと押し上げられるような鼓動が続いていた。

楓の指先の熱で血流が良くなっていくようで、体のところどころがむず痒くなる。

裕樹の喉がきゅっと締まるような感覚があった。
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