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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第9章 可惜夜に焦がれ墜つ【急】
裕樹にもたれるように座る葵。

これから葵の身に起きることを思えば、紫のショーツはもう意味をなさなかった。

「これ、もういらないよね。」

裕樹がそう言ってショーツの縁に指をかけると、葵の体が僅かに跳ねた。

葵の瞳が潤み、裕樹を見つめる。

その視線には、戸惑いと微かな訴えが滲んでいた。

力のない指先が裕樹の手を阻もうとする。

「……ぃやっ…」
 
声にならない声が漏れて、拒絶と呼ぶにはあまりにも弱々しいその手を、裕樹はそっと握り、静かに退けた。

二人の視線がぶつかる。

お互い何かを口にすることはない。

ゆっくりと布地は柔らかな太腿を降りていく。

肌が晒されていくたびに、恥じらいと抗えない戸惑いが目の奥に滲んで、揺れ動いた。

布地が自身の肌から遠ざかって行く事実を諦めたのか、あるいは受け入れたのか、その瞳が閉じられる。

膝から足首を滑る布地がついに、つま先から離れ、葵の全てを裕樹は目の当たりにする。

黒く艶めく髪、肩から胸元へと流れる豊かな曲線、くびれたウエストと腰へと流れるライン。

どれをとっても彫刻のように滑らかで、呼吸に合わせて肌は微かに震え、命の鼓動を伝えていた。

芸術について疎い裕樹でも、その姿は美しい作品のようだと思い、言葉が失われ、胸の奥から浅い吐息が漏れた。

この美しさが、粘液と汗に濡れていくことを思うと── まるで、聖なる彫像が獣に変わっていくような錯覚に陥る。

淫れて、激しく喘いで、葵の中の獣を呼び覚ます、──これはそんな儀式のようだと、裕樹は思いながら、指先が葵の下腹部へと伸びていく。
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