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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第9章 可惜夜に焦がれ墜つ【急】
葵の肉体から溢れ出る愛は、止まることなく裕樹の口の周りに絡みつく。

吸い出される淫靡な音を掻き消すように、屋根に打ち付ける雨の音が激しさを増す。

近くに雷が落ちたのか、轟音に裕樹は体がビクッと跳ねる。

それとほぼ同時に、男の本能がどこに向かうのかを思い出したようだった。

鳥が空を飛べることを知っているのと同じで、生き物が今日まで営んできた原初の本能を、経験がなくとも何をするのかを裕樹は知っている。

水分を多く含んだその果実から顔を離し、ゆっくりと顔を上げる。

そのまま床に手をついて、葵の体に沿うように這い寄る。

葵の輪郭に裕樹の影が静かに重なっていく。

お互いの視線が重なった。

葵は押し寄せる欲望に晒され続け、思考が追いつかず溺れているような表情だった。

髪は乱れていて、唇は僅かに開き、言葉を探しているようだったが、吐息が漏れているだけだった。

虚な瞳の奥には、快楽への抗いと受容がせめぎ合う葛藤が垣間見えるようだった。

交わされる言葉はなかったが、葵が拒絶をするならこのタイミング以外あり得ない。

何も語らない葵を見つめたまま、ただ一つだけ残された選択肢を選択し終えて、体をゆっくりと起こした。

身に付けていたシャツの裾に指をかけ、静かに脱ぎ捨てるが、外の雨が強くなっていて、布が床に落ちる音は闇に溶けた。

ベルトの金属音は、無機質な音を奏でて雷の余韻のように響く。

葵と一つの体になることを待ちきれない本能が、腰を突き出すようにしながら、ボトムは脱ぎ捨てられる。

布地が天に突き上げるほど張り詰めていたボクサーパンツに手をかけ、ゆっくりと下ろしていく。

先走ったカウパーが糸を引きながら、脈打つ鉄杭は葵の体に影を落とした。

2人の体を隠す布は全て無くなり、男と女は一つなろうとしていた。
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