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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第3章 半透明の優等生

その直後、教室の後ろから「いてぇ!」「なにすんだよ!」という声が飛ぶ。
「こらこら、何があったの?」
松山が慌てて駆け寄ると、男子のふたり──岡田と山下が睨み合っている。
「岡田が蹴ったんだよ! いきなり!」
「ちがう、先に山下が俺のイス引いたんだよ!」
松山は一瞬たじろいだが、深呼吸して口を開いた。
「はい、ふたりとも落ち着いて。どっちも悪かったってことにしようね。ね? ほら」
松山は優しく、でもはっきりと手のひらをふたりに見せながら言う。
「じゃあ、岡田くん、山下くんに謝って。山下くんもね」
「……ご、め、ん、ね」
「……い、い、よ」
小さな怒りを宿した声が教室に残る。でも松山は、それ以上は追及しない。すべてが「丸く収まった」ことにして、元の位置に戻る。
教卓に戻った松山は、ちらりとまたこよみの方を見やった。
彼女は静かに、机の上の朝のプリントを見つめている。
鉛筆の先が揺れたまま、字はまだ書かれていない。
──気のせい……かな。少し元気がなかっただけ。たぶん寝不足とか、そんなこと。だってこよみさんは、何も言ってなかったし。
そんな言い訳を心のなかで繰り返しながら、松山は今日の予定を板書し始めた。
「こらこら、何があったの?」
松山が慌てて駆け寄ると、男子のふたり──岡田と山下が睨み合っている。
「岡田が蹴ったんだよ! いきなり!」
「ちがう、先に山下が俺のイス引いたんだよ!」
松山は一瞬たじろいだが、深呼吸して口を開いた。
「はい、ふたりとも落ち着いて。どっちも悪かったってことにしようね。ね? ほら」
松山は優しく、でもはっきりと手のひらをふたりに見せながら言う。
「じゃあ、岡田くん、山下くんに謝って。山下くんもね」
「……ご、め、ん、ね」
「……い、い、よ」
小さな怒りを宿した声が教室に残る。でも松山は、それ以上は追及しない。すべてが「丸く収まった」ことにして、元の位置に戻る。
教卓に戻った松山は、ちらりとまたこよみの方を見やった。
彼女は静かに、机の上の朝のプリントを見つめている。
鉛筆の先が揺れたまま、字はまだ書かれていない。
──気のせい……かな。少し元気がなかっただけ。たぶん寝不足とか、そんなこと。だってこよみさんは、何も言ってなかったし。
そんな言い訳を心のなかで繰り返しながら、松山は今日の予定を板書し始めた。

