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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第3章 半透明の優等生
帰り道。ランドセルの重さは、いつもと変わらないはずだった。
けれど今日は、なぜだか背中にずっしりとのしかかるようだった。

「お父さんの、なまえ、ねんれい、しょくぎょう、すきなたべもの……」「お父さんはあなたのことをどうおもっていますか?」「あなたがお父さんを尊敬するところはどこですか?」

そして同じだけの問いが、お母さんにも向けられていた。

たった二枚の紙。それだけなのに。

こよみはランドセルの背を少しだけ浮かせて持ち直す。けれど、重さは変わらなかった。

こよみが家の前まで戻ると、月島呉服店の店先に立つ男の姿が見えた。

「いらっしゃいませ〜……あ、こよみちゃんか」

「……佐藤さん。ただいま」

佐藤周作は、月島呉服店の従業員で、こよみの父・孝幸の学生時代からの付き合いがある。
口が達者で、世間話や愛想笑いで客をつなぎとめる接客係だ。
黒縁メガネに薄毛の小柄な中年男で、いつも軽口を叩いては場を和ませようとする一方、こよみを見るその目だけは、どこか笑っていない――そんな違和感を残す。

のれんの隙間から顔を出した佐藤は、紺色の綿入り半纏を作務衣の上に重ねていた。足元は足袋に雪駄。鼻の頭と耳が赤くなっているのは、風の冷たさのせいだろう。

「おかえり。学校、もう終わったんだ」

こよみは小さく会釈をしただけで、何も言わない。

佐藤は猫背気味に身をかがめて、顔を覗き込みながら言った。

「浮かない顔だねぇ。……なにかあった? おじさんでよければ、相談に――」

そう言いかけながら、手を伸ばしてこよみの頬に触れようとする。

こよみはすっと顔をそらし、一歩だけ後ろに下がった。

「……宿題で、悩んでたんです。それだけですから」

声は静かだったが、その小さな身体から発された拒絶は、空気にしっかりと伝わった。

そう言い残すと、こよみは佐藤を避けるようにして、店先を通り過ぎ、裏手の勝手口へとまわる。

冷たい北風が、暖簾をばたばたと音を立てて揺らした。

佐藤は手を中途半端に浮かせたまま、少しのあいだ呆けたように立ち尽くしていたが、すぐにごまかすように鼻をすする。

「いやだねぇ、冬ってのは。手がかじかんじゃう」

独り言のように呟くと、仕事場へ戻っていった。
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