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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第3章 半透明の優等生
しばらくすると、再び扉が静かに開いた。
わずかな軋み音とともに、誰かが部屋へ入ってくる。
何も言わずにベッドへ近づき、こよみに腕を差し出した。
その姿は、紛れもなく――母、芙希子だった。

「あら、起きてたの」

声は柔らかく、いつも通りの調子だった。
けれど、こよみの耳には、それが底の抜けた空洞のように響いた。

母は、知っている。
この部屋で毎晩、何が起こっているかを。
そして、私の身体から“夜”の痕跡を消し、魔法をかけていたのも――母だったんだ。

「どいてちょうだい。シーツを取り替えるから」

抱き上げられたこよみは、力なく身体を預ける。
母は何も言わず、濡れた布団に手をかけ、手際よくシーツを剥がしていく。
その所作には、躊躇も迷いもなかった。

汚れた布が静かに畳まれ、袋に押し込まれていく。
続いて、清潔な白いシーツが広げられ、音もなく敷き詰められていく。

まるで、最初から何もなかったかのように。

洗面器から取り出されたタオルが、ぴちゃりと音を立てた。
ほんのり温かい布が、こよみの首筋をなぞる。
胸元、腕、腰、そして太腿へ――。

母の手は、優しかった。
優しいのに、どこまでも冷たかった。

まるで壊れたお人形の埃を払うみたいに、
昨日の“出来事”をひとつ残らず拭い取っていく。

すべてを、なかったことにするために。
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