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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第4章 花籠の中のつぼみ
その日の休み時間。
教室の一角で、こよみは静かに刺繍針を動かしていた。
白い布の上に、まだ半分ほどの花模様が浮かんでいる。針が布を通るたび、小さな音が指先から伝わり、心が少しだけ落ち着く。

向かいに座る古賀佳乃は、三つ編みをそっと揺らしながら細かいステッチを縫い進めていた。
赤ぶちメガネの奥の目は真剣で、糸を引く指先には迷いがない。
こよみが刺繍を始めたきっかけは、去年の冬、古賀に「一緒にやってみない?」と誘われたことだった。
最初はうまくできず悔しかったが、いまではこうして昼休みや放課後に少しずつ進めるのが日課になっている。

「こよみちゃん、それもうすぐ完成?」
古賀の柔らかな声に、こよみは小さくうなずいた。
「うん、あとちょっとで花びらが全部できる」
「きれいだね。色もかわいい」
そんなふうに言われると、胸の奥がほんのり温かくなる。

その時、「なにやってんのー?」と元気な声が上から降ってきた。
顔を上げると、司馬悠斗が机に手をついて覗き込んでいた。日焼けした肌に白い歯が目立ち、半袖のシャツから伸びる腕はよく動くサッカー少年そのものだ。クラスでも人気者で、誰とでも気さくに話す。

「刺繍?」
「そうだよ。こよみちゃん、すごく上手なんだよ」古賀が笑って答える。
「へー。俺、こういうの全然できないけど、見てると面白いな」
無邪気な言葉と視線が、こよみの手元と顔を交互に行き来する。その視線が、針先よりも鋭く胸の奥に刺さるような気がした。

「……別に、たいしたことないよ」
こよみは小さくつぶやき、針を動かす手を少し早めた。
司馬はそれでも机の端に肘をつき、花模様が浮かび上がっていく様子をじっと見ている。
「でも、こういうのってさ、形になるのがいいよな。サッカーのゴールみたいにさ」
「……同じなのかな」
「同じだって。頑張った分ちゃんと残るんだから」

その調子で少し話した後、チャイムが鳴ると司馬は「じゃ、またな」と手を振って戻っていった。残されたこよみは、ほんのり温まった指先を見つめながら、わずかな息を吐いた。
古賀は何も言わず、ただ静かに糸を引き続けていた。
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