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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第4章 花籠の中のつぼみ

部屋に入ると、孝幸が布団の上で胡座をかいて待っていた。
灯りは落とされ、常夜灯の明かりだけが、橙色に彼の輪郭を浮かび上がらせている。
「来たか」
低く押さえた声が、畳に吸い込まれるように響いた。
孝幸は白いシャツに羽織を引っかけ、膝を崩して座っている。
春先らしい柔らかな生地の和装で、胸元はゆるく開き、肌がわずかにのぞく。
その視線が、まっすぐにこよみを射抜いた。
こよみの喉が、小さく鳴る。
けれど返事はしない。
言葉も表情も浮かばず、ただ浅く息を吐いた。
足元からじわじわと熱がせり上がり、肩のあたりが妙に重く感じられる。
「そこに」
促され、こよみは畳の縁を避けながら歩み寄る。
歩き慣れた動作。迷いもためらいもなかった。
正座しようとした瞬間、袖口をふわりと引かれた。
姿勢が崩れ、畳の感触が離れ、背中に布団の柔らかさが触れる。
「……ぁ」
声とも言えない吐息が、こよみの唇からこぼれる。
その音だけが、自分がまだ“ここにいる”ことを証明しているようだった。
部屋の中は静まり返っている。
障子の向こうから、商店街のシャッターが風に揺れるような音が、かすかに届いた。
孝幸の手が、ゆっくりとこよみの髪に触れる。
指が梳くたび、黒髪がさらさらと畳に落ち、細い音を立てる。
そっと息を吸った瞬間、胸の奥がかすかにきゅっと鳴る。
けれどその感覚にすら、もう抵抗は覚えなかった。
手は、髪から頬へと移る。
肌に触れた瞬間、小さく息が詰まる。
「……っ」
喉奥で細く鳴った音は、こよみの意思から離れたところにあるようだった。
そのかすかな声が、部屋の静けさをかえって深める。
やがて、孝幸の手が布団の端をめくる。
畳の冷たさとは違う、こもった熱が足元に立ちのぼった。
促されるまま、布団へと身を滑らせる。
迷いも抵抗もなかった。
布団の中に広がる空気は、今日も変わらず、やさしく湿っていた。
洗いたての綿の香りに、微かに混じる体温の匂い。
その馴染みきったにおいが、こよみの鼻腔をくすぐる。
彼女は、目を閉じ、微かに肩をすくめ、
何も考えず、何も望まず、ただその時間をやりすごそうとしていた。
灯りは落とされ、常夜灯の明かりだけが、橙色に彼の輪郭を浮かび上がらせている。
「来たか」
低く押さえた声が、畳に吸い込まれるように響いた。
孝幸は白いシャツに羽織を引っかけ、膝を崩して座っている。
春先らしい柔らかな生地の和装で、胸元はゆるく開き、肌がわずかにのぞく。
その視線が、まっすぐにこよみを射抜いた。
こよみの喉が、小さく鳴る。
けれど返事はしない。
言葉も表情も浮かばず、ただ浅く息を吐いた。
足元からじわじわと熱がせり上がり、肩のあたりが妙に重く感じられる。
「そこに」
促され、こよみは畳の縁を避けながら歩み寄る。
歩き慣れた動作。迷いもためらいもなかった。
正座しようとした瞬間、袖口をふわりと引かれた。
姿勢が崩れ、畳の感触が離れ、背中に布団の柔らかさが触れる。
「……ぁ」
声とも言えない吐息が、こよみの唇からこぼれる。
その音だけが、自分がまだ“ここにいる”ことを証明しているようだった。
部屋の中は静まり返っている。
障子の向こうから、商店街のシャッターが風に揺れるような音が、かすかに届いた。
孝幸の手が、ゆっくりとこよみの髪に触れる。
指が梳くたび、黒髪がさらさらと畳に落ち、細い音を立てる。
そっと息を吸った瞬間、胸の奥がかすかにきゅっと鳴る。
けれどその感覚にすら、もう抵抗は覚えなかった。
手は、髪から頬へと移る。
肌に触れた瞬間、小さく息が詰まる。
「……っ」
喉奥で細く鳴った音は、こよみの意思から離れたところにあるようだった。
そのかすかな声が、部屋の静けさをかえって深める。
やがて、孝幸の手が布団の端をめくる。
畳の冷たさとは違う、こもった熱が足元に立ちのぼった。
促されるまま、布団へと身を滑らせる。
迷いも抵抗もなかった。
布団の中に広がる空気は、今日も変わらず、やさしく湿っていた。
洗いたての綿の香りに、微かに混じる体温の匂い。
その馴染みきったにおいが、こよみの鼻腔をくすぐる。
彼女は、目を閉じ、微かに肩をすくめ、
何も考えず、何も望まず、ただその時間をやりすごそうとしていた。

