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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第1章 始まりの夜
翌朝、こよみが目を覚ますと、裸のまま眠ったはずの身体はいつの間にか新しいパジャマを身にまとい、布団を深く被せられていた。
血と、あのひどい臭いのする粘液でぐしゃぐしゃに汚れていたはずのシーツも、何事もなかったかのように、洗い立ての白を取り戻している。

ああ、昨日のことは……ただの悪い夢だったんだ。

そう思いかけて、こよみは胸を撫で下ろした。
けれど、安堵は長く続かなかった。
下腹部には、現実の証のように鈍く重い痛みが、まだ確かに残っていた。

夢と現実の境が曖昧なまま、こよみは台所へと足を運ぶ。
ふわりと鼻先をくすぐるのは、カツオ出汁のやさしい香り。
台所では母が朝食の支度をしていた。

こよみの気配に気づいた母は、振り向き、優しく微笑む。
「おはよう、こよみ。今朝も寒いわね」

その声に、思わず胸が詰まり、こよみは母の腰にぎゅっと抱きついた。
母は少し驚いたように笑って、「あら、今日は朝から甘えんぼうさんね」と言いながら、こよみの長い髪をそっと撫でた。

居間に向かうと、孝幸はいつも通り新聞を広げていた。
紙面で顔は隠れていたが、こよみは恐るおそる口を開く。

「……お、お父様。おはようございます」

新聞の向こうから聞こえる声は、穏やかで調子のいいものだった。
「おお、こよみ。おはよう」

新聞を下ろした父の顔は、いつもと変わらない、よく知る“父”だった。

やっぱり、昨日は、ただの悪い夢だったんだ。
股が痛むせいで、そんな夢を見てしまっただけ……そう思おうと、こよみは自分を必死に納得させた。
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