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いまやめないで このままでいて
第3章 第3話 あなた色を決して忘れない

その土曜日、杉崎唯花は会社が用意してくれた借り上げ社宅に入居手続きを終えてから、わずかばかりの生活用品を揃えて引っ越しを終えると両隣の1階の住人に挨拶の訪問をしたところだった。
不動産会社が建てて賃貸用に管理している瀟洒な2階建てのアパートで、家具や家電はそろっているから、当座の大きな荷物というと寝具くらいのものである。
わずかな期間しか暮らさないはずだと唯花は思っていたので、それほど大掛かりな作業ではなかった。
挨拶を済ませてから折り畳んだマットレスや布団と少しだけの開梱されていない段ボールが置かれた自分の部屋に戻ると、手伝いに来てくれていた池原潤一が手持ち無沙汰そうにこちらを向いて立っていた。
「終わった?」
「うん、両方とも感じよさそうな人だったわ」
「それは良かったね」
そう言ってから潤一は胡坐をかいて床に座り込んだ。
「いい部屋じゃないか、外も明るいし」
まだ立ったままの唯花を下から見上げながら彼は、言った。
南側の掃き出し窓の外には少し高い腰壁のある小さなバルコニーがあり、敷地フェンスの外には芝生の広がるポケットパークがあって、犬の散歩をしている女性が見える。
「でも、外から丸見えだわ」
「スクリーン貼ってブラインド付ければいいんだよ、ピンクの」
両手を後ろについてそう言いながら、潤一は唯花の笑いを誘った。

