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いまやめないで このままでいて
第3章 第3話 あなた色を決して忘れない

去年の秋、名古屋に本社があるインテリアデザイン関係のこのコンサルタント会社に転職をしてきた唯花は、1年間の東京での実務研修を命じられ、チューターを任された潤一と行動を共にすることが多くなるうち、その的確な判断とこだわりのある仕事の丁寧さにこれまで付き合いのあった同年代の男とは違う憧れを描くようになっていった。
それは、1年ほど前まで付き合っていた恋人を失って間もない淋しさを埋めたい気持ちが大きく働いていたのかもしれない。
3か月が経った頃、家庭のある10歳も年上の潤一と隠さなければならない恋に深く落ちてしまったのは半年前…
重要なプレゼンがクライアントの高評価のうちに採用され、その日が偶然唯花の誕生日であることを知った彼に誘われたクリスマス直前の日のことだった。
「ありがとうございました。池原さんのお蔭でいい誕生日になりました。」
「えっ! 今日誕生日だったの?」
横浜の関内にあるクライアントの会社を出てから、ほっとした顔で唯花が言った言葉に池原は驚いて振り向きながらそう応えたのである。
「知らなかったよ、ごめん。じゃあ、ちょっとだけお祝いの晩飯に行こうか」
と言うと、唯花の返事を待たずに会社へ成約の報告と直帰の連絡をしてから改めて唯花のほうを振り向いた。
「いいんですか? おうちでお食事しなくて」
唯花が尋ねる。
「大丈夫だよ。ほとんど家で食べることはないから」
「わたしはうれしいですけど、でも…」
遠慮がちに言う彼女を気にも留めず、池原はタクシーに向かって手を上げていた。

