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いまやめないで このままでいて
第1章 第1話 10,000メートルの空でとろけて

〝…ならびにシンガポール航空SQ8525シンガポール行きにご搭乗のお客様は…〟
搭乗開始の案内アナウンスが流れる中、葉月はゲート前のベンチでコーヒーを飲みながら口元に小さな微笑みを浮かべて、パスポートを開こうとしている隣の鵜川孝弘の横顔を嬉しそうに眺めていた。
ゆっくりとめくられるそのパスポートには、それぞれのページにいろんな形と色のスタンプが雑然と押されている。
「このごろは押さない空港のほうが多いから」 と少し寂しそうに孝弘が以前に言ったことを覚えていた葉月は、使いこまれた彼の、そしてまだ新しい自分のそれぞれのパスポートに手続きに従ってスタンプを押してもらったのだった。
遅くなったふたりの新婚旅行の記念日を紙に残しておきたかったから。
何度も行っているところではない場所を孝弘は選びたかったのだが、葉月のリクエストに応えて、結局華やかなシンガポールで2泊してから陸路で列車に乗ってマレーシアへ行き、あまり知られていない島のコテージで静かな時間を過ごす1週間の計画を立てたのである。

