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いまやめないで このままでいて
第4章  第4話  夜汽車に揺られて濡れて

「せっかくだから神戸に行ってみようか」
 
 まだ陽が高くにある淀んだ川沿いの遊歩道を歩いていた純一に、振り向きながら声をかけられた亜矢は「うん、行ってみたい」と眼を大きく輝かせて返事をした。

「神戸、まだ行ったことないから」

「いいところだよ、おしゃれで」

「ジュン君は卒業するまでいたんだよね」

「そう、生粋の神戸っ子です」

使い込まれた茶色い革製のボストンバッグを提げた彼は、自慢げに笑いながら応えた。



 笠原亜矢と宇田川純一は、大阪中の島に本社のある商社の同期入社で、5年目の中堅社員研修の最終報告会を今しがた終えたばかりだった。

 各地に散っている同期が20人ほど集まっていたが、東京から参加したのは彼女らふたりだけだった。

 二泊三日の研修最終日をやっと終えたということもあって他のメンバーは終了後のあいさつを交わしてそれぞれの任地へ三々五々帰っていったのである。

 海外営業部と経理部とに異なる部署だったが、亜矢と純一は入社して半年ほど経った頃、ふとしたきっかけで付き合うようになってもう5年目になる。
 
 交際してから数回のデートのあと体のつながりもできたことで、結婚してもいいという気持ちも亜矢にはあった。

 ただ、純一が2年目の秋にはバンコク勤務になってしまったため実際に会えていたのは1年足らずだったことからなんとなくまだお互いに踏み切れずにいたのである。

 両親が教師の厳格な家で育ち男経験の浅かった亜矢は、しかし純一と付き合うようになってから女の悦びを知るようになったので、年に数回しか会えなかったこの3年は心も体も寂しくて、今回の研修での一時帰国期間中に会えることが何よりも楽しみだった。

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