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いまやめないで このままでいて
第4章 第4話 夜汽車に揺られて濡れて

「帰りにさ、一緒に夜行列車に乗ってみない?」
研修の日程が決まった時に、鉄道好きの純一が赴任先のバンコクから亜矢に電話をくれた。
「夜行列車? 何それ 寝台列車のこと?」
「そうだよ。夜中に大阪から乗って、東京に朝着く」
寝台列車というものを亜矢は知ってはいたが乗ったことなどなかったので、最初はどう返事してよいかわからなかったが、
「うん、乗ってみたい!」
思わずそう応えてしまったのである。
「別々の個室しか取れなかったけど、いいよね?」
1か月前に、切符が取れたという連絡が入った時も〝個室?〟ってどういうことだろうと思ったが、いまや国内で唯一となってしまった寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の個室を確保するのは至難の業だということをあとで友達から聞いて、亜矢は初めて知ったのである。
両親に偽って純一と一泊したいと思っていた彼女だったが、めったにチャンスのない寝台列車というのもロマンチックでいいかもしれないと彼女は思った。
そしてネットで情報を調べては1か月が過ぎるのが待ち遠しくてしかたがなかった。
大阪から神戸の三ノ宮までは電車で30分ほどの距離である。
雑然とした印象の大阪に比べて、六甲山が迫り海も間近に見える初めての神戸の街は、見慣れた横浜の街よりもなんとなく落ち着いた洗練を第一印象として亜矢は感じた。
純一に聞かされたことのある30年前の大震災のこともニュースでは知っていたが、生まれてもいない彼女には何も実感が湧かなかった。

