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エンドレス・サマー
第1章 エンドレス・サマー

翌年の春。
私は晴れて、東京の大学に入学して、女子寮に移った。
東京に出ても潤貴には一度も連絡しなかった。
待ってる、と言ったのは、私を喜ばせるための人たらしの潤貴の出まかせのような気がして。
潤貴の思わせぶりに傷つくのが嫌だった。だから連絡しなかった。
そしてまた、夏がきた。
電車に揺られて三時間。お盆の迎え火に間に合うように、実家に帰った。
久しぶりにお母さんと二人で夕飯を作って食べたあと、リビングに移動して、テレビを見ながらデザートのスイカにかじりつく。
「今年もこれから繁忙期よ。せっかく亜澄がいるのに私は留守ばっかりで・・まあでも、潤ちゃんがいれば安心ね」
「潤兄が?」
私はスイカから顔を上げた。
丁度その時、庭に一台の車が入ってくる音がして、しばらくすると潤貴がやってきた。
「絵里子おばさん、ひさしぶり。おふくろからこれ」
洋子おばさんは腰痛がひどくて里帰りできないと聞いていたが、東京限定のスイーツの箱とボストンバッグを持った潤貴だけがひとり、やってきたのだった。
「潤ちゃんスイカ、食べるわよね。今持ってくる」
「ありがとう」
潤貴はキッチンに入っていったお母さんの背中を見送ると、私のほうに向き直る。
「亜澄」
「元気だった?」も、「久しぶり」もなく、私をじっと見つめる。
言葉もないまま、潤貴と私はキスを交わした。
唇に触れた瞬間、直感する。
夏が来る限り、この関係は終わらない。
キッチンから、お母さんがスイカを切る音がする。
私たちはソファの陰で、その先を急ぐような激しいキスをした。
こうしてまた、私たちの夏がやってきた。

