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魅惑~甘く溺れる心と身体。
第9章 なつめと大根。

「そう、なんですね。唯斗さんの知識力、すごいです」
「ありがとう。褒めても何も出ないよ? はい、じゃあ、あ~ん」
「――っつ!」
 えっ?
 あたしちゃんと食べたのに、まだやるの!?

「もうっ、もうひとりで食べられます! だから」
 下ろして。
 そう言おうとしたら――。
「いいから、こういう時は甘えるものだよ?」
 唯斗さんは譲らない。

「……うう……」
 恥ずかしい。
 けど……世話を妬いてもらえるのは嬉しい。
 唯斗さんの膝の上で問答するあたしはとってもおかしな顔をしていたのかもしれない。
 クスクスって笑われる。

 ……あうう。
 やっぱり恥ずかしいです。

 差し出されたスプーンの具材を頬張り続けるあたしは、恥ずかしくて味なんてもう判らなくなっている。
 顔も真っ赤で火照って、熱い。
 だからきっと、顔は林檎みたいに真っ赤だ。

「澪ちゃんはね、頑張りすぎなんだよ。何もしなくても、君はちゃんと愛されているよ。対価を支払わなくてもいいんだ」

「――っつ」
 それは不意打ち。
 あたしがいつも気にしていることを、唯斗さんはそうやってあっさり代弁する。
 どうして?
 どうして唯斗さんはいつもこうなの?

「どう、して……そんな……っひ」
 もう限界だった。
 あたしの涙腺が崩壊する。

 あたしが気にしていることをさらっと言ってのける。
 気にかけてくれる。

 優しすぎるよ……。

「ふぇえ……」

 あたしはいつも自分を責めていた。
 お母さんがあたしの元から去って行ったのは、あたしがもっと頑張らなかったからじゃないか。


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