この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ
(三)
いくら出張先が山奥であっても、出社する服装は代わらない。
簡単な朝食を食べ終え、グレーのスーツに身をかためた宝が向かう先は、丞がいる新たな仕事場だ。
宝たちが出社することになったオフィスは、会社が古民家を買い取った。
世間一般では山奥にオフィスがあるのは何かと不都合で面倒くさいと思われがちだが、実はそうではない。
ここは都会とは違い、山奥のここでは満員電車で揉みくちゃにされる心配はない。しかも家から仕事先の距離はほとんどなく、ほんの五分程度で到着する。
車道だってきちんとある。
気をつけなければいけないのは、車道は細く、一歩でも外れれば崖で、バスはあるにはあるが、さすがは山奥だ。一時間に一本あるかないかだ。けれどそれも勝手がわかれば、そうそう困ることはない。
オフィスが山奥にあるという欠点を如いてあげるとするならば、本社で会議がある時くらいだろうか。都会で暮らしていた時よりもずっと早くに出発しなければならない。
宝は幼少の頃から両親が共働きということもあってか、父方の祖母と家にいる時間が多かった。おかげで炊事洗濯が得意になり、ひとりで黙々と何かをすることが好きだった。
そういった生い立ちだから、おっとりした性格で、実は都会よりもこういった田舎暮らしに憧れがあった。
宝にとって、今のこの職場はとにかく過ごしやすい。
木の葉が風に揺られてさわさわと音を奏でている。
山沿いに流れている小川のせせらぎが心地好い。
ここには都会の喧噪もなく、ただ自然の息吹が聞こえてくるばかりだ。
蛇のように曲がりくねった車道に沿って歩いて行けば、真っ白なテラスが見えるそこが、宝の出社先だ。
オフィスから少しでも離れれば、そこは木々が生い茂った森の中だ。殺伐とした都会ではあまり考えられない、こういう自然な場所で仕事をするのも悪くない。
もうすぐ好きな人に会える。
そう思えば、宝の足が速くなる。
おかげで仕事へと急ぐ足が幾度となく砂利道に転がっている石に躓(つまず)きそうになる。
「おはようございまっ……うわわっ!」
宝はオフィスの木戸を開けた。
丞に会うことばかりを考え、浮き立つ心を抑えきれなかった宝は足下に段差があるのを忘れていた。そのまま前のめりになり、倒れ込みそうになる。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


