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イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ

 すると宝の目の前に腕が現れた。斜めになる身体はその腕によって見事に掬い取られた。

 見上げると、そこには宝が恋心を抱いている丞がいるではないか。
 宝の心臓が、どきりと大きく鼓動する。


 好きな人に支えてもらって嬉しいと思う宝だが、しかし丞は違う。彼が宝を助けたのは成り行きだったらしい。彼は相変わらずの仏頂面だった。


 丞に恋心を抱く胸が痛むのに、触れられた身体が熱を持つ。

 声が震えてしまうのは、丞に嫌われて悲しいからなのか、受け止めてもらって嬉しいからなのか。あるいはその両方なのかもしれない。

 朝からの思ってもみなかった好きな人との至近距離に、宝の心臓は大きな鼓動を繰り返す。

 いつまでも無言でいる宝を不信に思ったのか、丞が顔を覗き込んできた。

 宝の心臓はもう爆発寸前だ。どうしようかとドギマギしていると、薄い唇が開いた。


「……顔色が悪いな」


 端整な顔立ちをしたその人の眉間に皺が寄っている。

 宝の顔色が悪いのは恐らく、ここへ来た当初から見る、あの狼の夢が原因だろう。しかしまさか丞にそんなことを言える筈もなく、宝は唇を噛みしめた。


「体調管理も仕事の内だ。それくらいきっちりしておけ」

 不機嫌な物言いに、あれほど煩(うるさ)かった宝の心臓が一気に縮まった。

「……すみません」

 彼のたったひと言で、胸が痛む。
 丞の一挙一動が宝のすべてを操作する。
 それだけ自分の胸は丞で一杯になっているのだ。


「丞、そう言うアンタの方がよっぽどおかしいわよ。慣れない山奥で暮らそうっていうんだもの。誰だって体調くらい崩すわよ、ねぇ、宝ちゃん? あたしなんてもうお肌ボロボロ……」

 ピンヒールの足音と共にオフィスの中からやって来たのは、阿佐見 泪(あさみ るい)。
 彼女は丞と同期で入社したこのプロジェクトチーム唯一の女性だ。
 腰まである茶色の髪はきちんと手入れしているのだろう、綺麗に波打っている。


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