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イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ
どうやら田牧や斎も丞と宝たちのことが気になるようだ。宝たち三人に注目している。
キーボードを叩く音が消えた静かなオフィスには、沈黙が生まれる。
しかし、生まれ出たその静寂は宝によってふたたび掻き消された。
「あの、俺。椎名さんが倒れるの、嫌です」
自分は丞に快く思われていない。年下でしかも成績も丞より下の自分に意見されるのはかなりの屈辱だろう。それでも、宝は丞に休んでほしいと切に思った。
たとえ、もう二度と口を利いてくれなくても、それでも丞の体調の方が大切だ。
ファイルを持つ手が震えるのは仕方がない。だって自分はこれからもずっと丞に疎(さげす)まれるだろうから。もしかすると、生意気な自分はもう来なくても良いと言われるかもしれない。
丞に会えなくなることが、何よりも怖い。
「……わかった。俺がいなくてもしっかり進めておけよ。顧客は取り逃がすな」
ふたたび沈黙が流れ、ややあって丞は渋々頷いた。
しかし一部の人間が気になるらしい。彼は目をつり上げ、右隣に座っている斎に命じる。
「はいはい、わかってるって」
対する斎はーーといえば、いつも通り軽い返事をするばかりだ。その斎にいささか不安を抱きながらも、丞はおぼつかない足取りでオフィスから出て行った。
そんな丞の後ろ姿は普段とは打って変わって頼りなく、見ていて気が気ではない。
できることなら家まで無事に帰宅できたかどうか送ってやりたい。しかし、プライドが高い彼のことだ。きっと自分一人で帰れるとそう言うに決まっている。彼は宝の心配を快くは思わないだろう。
「……気になる?」
宝が丞の姿が消えたド唯一の出入り口を見つめていると、阿佐見が訊ねてきた。
「えっ?」
突然声をかけられ、宝の心臓が跳ねる。
視線をやれば、赤いルージュを引いた唇が弧を描いている。ふんわりと微笑む阿佐見はまるで、宝の心を見透かしているようだった。
口では丞のことを悪く言っているが、リーダーとしての立場をきちんと理解している。そればかりか部下の宝も気にかけてくれる、とても心優しい女性なのだ。
「宝ちゃん、お料理得意なんでしょう? あいつ、意外と食には煩いから作ってやってほしいのよ」
それは願ってもみない二人きりになるチャンスだ。けれど自分が行っても余計に気分を害するのではないか。

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