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イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ
(六)
それは宝が夢にまで見た、件(くだん)の狼に似ている。
稲光を背に、佇(たたず)む一匹のそれ。
闇の中で妖しく光る眼は、怯える宝を写し出していた。
彼は口の両端に生えている鋭い牙を剥き出しにして呻っている。
狼がいたそこに、丞の姿はない。
ということは、彼はそれだろうか。
消えた丞。
獣のような呻り声。
そして突如として現れた狼。
普通なら考えられないこの光景は、しかし生まれ出た疑問をすべて解消させる。
「椎名、さん?」
恐怖と緊張が宝を襲う。
口内に溜まった唾を飲み込むと、彼の名を呼んだ。
その声は思いのほか震えている。
か細いその声は闇の中に消えていく……。
しかし狼にはきちんと聞こえていたようだ。
彼は前屈みになると後ろ足で床を蹴った。
それは驚くほど速く、瞬時の出来事に反応できる筈もない。
気がつけば宝は倒れ込み、狼に取り押さえられていた。
夢の光景そのままだ。
鋭い犬歯を剥き出しにした大きな口が宝の喉元を捉える。
(殺される!)
宝が覚悟したその時だ。
耳を劈(つんざ)く銃声が聞こえたかと思うと、同時に狼が甲高い鳴き声を上げ、宝から離れた。
身軽になったその身体を起こし、入口の方を見やれば、そこには田牧が立っていた。
彼はどこから持ち出したのか、熊撃退用のライフルを手にしている。
そのことから、宝は田牧が狼を撃ったのだと理解した。
しかし、この狼は丞だ。
そのことを知らない田牧は、慣れた手つきでまたもやライフルを構えた。
「枇々木くん、大丈夫かい? 次の一発で仕留める」
そう言った田牧に、しかし宝は彼に向かって飛び出した。
「何をっ!!」
「ごめんなさい。でも、殺しちゃだめなんです!!」
宝は田牧のみぞおちに拳を入れ、気絶させる。
狼が倒れているだろうそこを見やれば、しかし狼はそこにおらず、もぬけの殻だった。
どうやら彼は開放されていた窓からバルコニーを抜け、逃げたらしい。
おそらくは田牧が放った弾が命中したのだろう。狼がいたであろうそこには鮮血らしき液体で濡れている。
……宝の全身から血の気が引いていく。
このままの状態だと彼は死んでしまうかもしれない。
宝の脳裏に、目を閉ざし、それっきり動かなくなった丞の姿が過ぎる。

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