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銀狼
第7章 還るべき地
セレナの顔は不機嫌なままで、頬だって膨れている。
獣なのに愛だなんておかしい。
“ ああ、……でも、懐かしい ”
毛皮から伝わる、動物の温もり。
そう──かつての自分は確かにこの温かさを知っていたんだ。
温もりを教えてくれた大切な友達。
わたしはちゃんと、彼を愛していた──。
「──…わたしが、五歳の頃ね」
セレナは目を閉じて…気付けば銀狼に話しかけていた。
「屋敷の庭にラーイという名前の猟犬がいたの。…親犬は大きくて怖かったけどその子はまだ仔犬でね、とても可愛らしかったわ…」
特に反応もないので彼が話を聞いているのかどうかは定かでない。
「お父様には駄目だと言われていたけれど、わたしはずっとラーイと遊んでいたの。隠れて、ひっそりと」
大人たちにばれないように気を付けて
柵を乗り越え彼がいるもとへ──。
そんな秘密の友達は、彼女にとって特別で
少しずつ成長し大きくなっていくラーイを見るのがとにかく幸せだった。